「自営業だと会社員より社会保険が心もとないと聞いたけれど、具体的に何が違うのだろう」——独立を考えている方や、家計の相談を受けていると、こうした声をよく耳にします。結論からいうと、自営業(国民年金・国民健康保険)と会社員(厚生年金・健康保険)では、公的保障の範囲が異なります。この記事では、その違いを整理したうえで、民間保険を検討する際にどう考えればよいかをFPの視点で解説します。
結論:自営業と会社員では、公的保障の「厚み」が違います
医療費の自己負担に上限を設ける高額療養費制度は、会社員・自営業どちらも対象です。一方で、働けなくなったときの「傷病手当金」と、亡くなったときの「遺族厚生年金」は、会社員(厚生年金・健康保険の加入者)にはあり、自営業(国民年金・国民健康保険のみの加入者)には原則としてありません。この差をどう埋めるかが、自営業の方が保険を考えるうえでの一つの論点になります。
公的保障を比較してみましょう
| 項目 | 会社員(厚生年金・健康保険) | 自営業(国民年金・国民健康保険) |
|---|---|---|
| 高額療養費制度 | あり(自己負担に上限。2026年8月診療分から上限額が引き上げ) | あり(会社員と同じ仕組みで利用可能) |
| 傷病手当金 | あり(標準報酬日額のおおむね3分の2を、通算1年6か月支給) | 原則なし |
| 遺族年金 | 遺族基礎年金+遺族厚生年金(報酬比例部分。金額は個別に異なる) | 遺族基礎年金のみ(子のある配偶者・子が対象) |
出典:厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」、全国健康保険協会、日本年金機構(2026年8月時点)。遺族年金の具体的な支給額は個人の加入状況によって異なるため、本文中では金額を記載していません。
会社員にあって自営業にない保障:傷病手当金
傷病手当金は、健康保険の被保険者が業務外の病気やケガで働けなくなったときに、標準報酬日額のおおむね3分の2が、通算して1年6か月支給される制度です(出典:全国健康保険協会)。制度の詳しい支給要件は「傷病手当金とは?支給額と対象をFPが解説」でも解説しています。
一方、自営業の方が加入する国民健康保険には、この傷病手当金にあたる制度が原則としてありません。つまり、病気やケガで仕事ができない期間の収入は、自営業の場合は基本的に自分の貯蓄や備えでまかなう必要があるということです。これは、自営業の方が保険や貯蓄の必要性を考えるうえで、意外と見落とされがちな重要な論点です。
会社員より厚い保障:遺族厚生年金
亡くなったときの遺族給付にも差があります。国民年金からは、子のある配偶者または子を対象に遺族基礎年金が支給されます。会社員はこれに加えて、厚生年金から報酬比例の遺族厚生年金が上乗せされます(出典:日本年金機構)。自営業の場合はこの上乗せがないため、遺族基礎年金のみとなります。
なお、遺族年金の支給額は加入期間や報酬水準によって個別に異なり、年度ごとに改定されるため、具体的な金額は日本年金機構の最新情報でご確認ください。仕組みの全体像は「遺族年金はいくらもらえる?仕組みをFPが解説」で詳しく整理しています。
公的保障で足りない部分をどう考えるか
ここまでの比較から見えてくるのは、「自営業は保険が絶対に必要」でも「会社員は保険が不要」でもなく、埋めるべき部分がそれぞれ違うということです。
- 自営業の方は、働けない期間の生活費(傷病手当金にあたる部分)と、万一のときの遺族の生活費(遺族厚生年金にあたる部分)の両方を、貯蓄や民間の備えで検討する余地があります。
- 会社員の方は、傷病手当金や遺族厚生年金という土台があるため、「その上でどこまで上乗せするか」という考え方になります。
家計相談を受けていると、独立・フリーランス転向のタイミングで「今まで意識していなかった保障がなくなっていた」と気づく方に出会うことがあります。これは特別なケースではなく、雇用形態が変わる以上、公的保障の範囲も変わるという、制度上ごく自然な結果です。
民間保険・iDeCoなど、検討する際の考え方
不足分をどう埋めるかは、家族構成・貯蓄額・すでに加入している保障によって大きく変わるため、この記事で「こうすべき」と断定することはできません。一般的に検討の対象になりやすいものとして、次のような選択肢があります。
- 就業不能保険・所得補償保険(働けない期間の収入を補う)
- 生命保険(万一のときの遺族の生活費を補う)
- iDeCoや国民年金基金(老後資金の上乗せ。傷病手当金や遺族年金の代わりにはならない点に注意)
自営業の方は会社員よりiDeCoの掛金上限が高く設定されているため、老後資金づくりの選択肢として検討されることがあります。詳しい仕組みは「iDeCoとは?仕組みと掛金をFPが解説」も参考にしてください。
注意点・向いていない人
- すでに十分な貯蓄があり、働けない期間や万一のときの生活費をまかなえる場合は、無理に民間保険を増やす必要はありません。
- 保険は掛け捨て型・貯蓄型など仕組みが異なり、貯蓄型は解約返戻金がある一方で保険料が高くなりやすいなど、それぞれにデメリットがあります。内容を十分理解せずに加入すると、家計を圧迫する原因にもなります。
- 保険料の具体的な金額は年齢・性別・健康状態・保障内容によって大きく変わるため、この記事では金額を記載していません。検討する際は見積もりで確認してください。
よくある質問
Q. 自営業でも高額療養費制度は使えますか?
A. はい。国民健康保険の加入者も高額療養費制度の対象です。仕組みは会社員(健康保険)と共通です(出典:厚生労働省)。
Q. 自営業が傷病手当金の代わりに備える方法はありますか?
A. 就業不能保険・所得補償保険での備えや、生活費数か月分の貯蓄を確保しておくなど複数の選択肢があります。特定の商品をおすすめするものではなく、内容を理解したうえでご自身に合う方法を検討してください。
Q. 遺族厚生年金がない分、自営業は生命保険で全額カバーすべきですか?
A. 一概には言えません。必要な保障額は、貯蓄額や子どもの年齢、配偶者の収入などによって変わります。判断に迷う場合は、必要に応じて専門家にご相談ください。
Q. 国民年金基金やiDeCoは、遺族年金の代わりになりますか?
A. なりません。どちらも老後資金を自分で積み立てる制度であり、亡くなったときの遺族保障とは目的が異なります。
Q. 保険の見直しはどのタイミングで検討すればよいですか?
A. 独立・転職・結婚・出産・住宅購入などのライフイベントの前後は、公的保障の範囲が変わりやすいタイミングです。ただし必要性は世帯ごとに異なるため、都度ご自身の状況に照らして確認することをおすすめします。
ミナト先生のまとめ
自営業と会社員では、公的保障の範囲がはっきりと違います。特に「働けない期間の傷病手当金」と「亡くなったときの遺族厚生年金」は、会社員にはあって自営業には原則としてない保障です。だからといって「自営業は保険に入るべき」と単純に結論づけるのではなく、まずご自身の公的保障がどこまでカバーしているかを把握し、そのうえで貯蓄や民間保険での上乗せを考える、という順序が大切だと感じています。
保険の必要性は世帯ごとに異なります。加入・見直しの判断は、必要に応じて専門家にご相談ください。
制度は改正される場合があります。最新の内容は厚生労働省などの公式情報でご確認ください。
この記事を書いた人:ミナト先生/FP2級・元携帯キャリア営業(約1万契約)。通信費と家計の"損しない"見直しを発信しています。


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