「会社員から独立を考えている」「フリーランスになったけれど、保険はどうすればいいのかわからない」——そんなご相談を家計相談の中でよくお聞きします。
自営業と会社員では、病気やケガ、老後、万一のときに受けられる公的な保障の範囲が大きく異なります。この違いを知らずに民間保険を検討すると、必要な保障が見えなくなったり、逆に不要な保障まで手厚くしてしまったりしがちです。
この記事では、公的保障の違いを先に整理したうえで、民間保険を検討する際の考え方をFPの視点でご紹介します。
結論:まず公的保障の差を知ることが出発点です
結論から言うと、自営業(国民健康保険・国民年金)は会社員(健康保険・厚生年金)に比べて、病気やケガで働けない期間の収入保障と、老後・万一のときの年金の「上乗せ部分」が手薄になりやすい構造になっています。
ただし、これは「自営業は保険にたくさん入るべき」という意味ではありません。貯蓄や事業の状況によっては、公的保障の不足分を自己資金でまかなえる方もいます。まずは自分の場合、公的保障がどこまでカバーしてくれるのかを知ることが出発点です。
会社員と自営業、公的保障はここが違います
会社員(正社員などで社会保険に加入している方)と自営業・フリーランスでは、加入する制度そのものが異なります。主な違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | 会社員(社会保険) | 自営業(国民健康保険・国民年金) |
|---|---|---|
| 医療保険 | 健康保険(協会けんぽ・組合健保など) | 国民健康保険 |
| 高額療養費制度 | 対象(共通の制度) | 対象(共通の制度) |
| 傷病手当金 | あり(業務外の病気・ケガで働けない場合) | 原則なし |
| 年金の1階部分 | 国民年金(基礎年金) | 国民年金(基礎年金) |
| 年金の2階部分 | 厚生年金あり | 厚生年金なし(上乗せは任意加入の制度で各自準備) |
| 遺族年金 | 遺族基礎年金+遺族厚生年金(要件を満たす場合) | 遺族基礎年金のみ(要件を満たす場合) |
| 労災保険 | あり(業務上のケガ・病気) | 原則対象外(一部業種は特別加入制度あり) |
| 雇用保険(失業給付) | あり | なし |
| 保険料の決まり方・負担 | 会社と折半 | 全額自己負担、扶養人数に応じて増える場合がある |
(出典:全国健康保険協会「傷病手当金について」、厚生労働省「高額療養費制度について」、日本年金機構「遺族年金」の各公表内容をもとに、2026年8月時点の制度としてミナト先生が整理)
表を見ると、医療費の自己負担に上限を設ける「高額療養費制度」は会社員・自営業共通で使えますが、それ以外の「働けない間の収入」「老後の上乗せ」「万一のときの遺族保障」「失業・労災」については、自営業側が手薄になりやすいことがわかります。
高額療養費制度は2026年8月から上限が引き上げられています
高額療養費制度は、1か月(月単位)の医療費の自己負担が、所得区分ごとの上限額を超えた場合に超過分が払い戻される制度です。会社員の健康保険でも自営業の国民健康保険でも、仕組みは共通です。
2026年8月診療分から、この上限額が引き上げられました(出典:厚生労働省)。年収約370万〜770万円の「区分ウ」の場合で比較すると、次のとおりです。
- 2026年7月診療分まで:80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
- 2026年8月診療分から:85,800円+(総医療費-267,000円)×1%(あわせて年間上限が新設され、区分ウでは53万円)
- 多数回該当(直近12か月で3回以上上限に達した場合の4回目以降):44,400円(据え置き)
区分ウ以外の具体的な上限額や、2027年8月に予定されている区分の細分化については、現時点でのマスター値が確定していないため、この記事では扱っていません。ご自身の所得区分での正確な上限額は、厚生労働省の公表資料か、加入している健保組合・市区町村の窓口でご確認ください。
なお、この計算式の「医療費」は窓口での自己負担額ではなく、保険診療の総医療費(10割分)である点にも注意が必要です。また月単位で判定されるため、同じ治療でも月をまたぐと自己負担が増えることがあります。
自営業側で公的保障が手薄になりやすい部分
表からもわかるとおり、自営業の場合、特に次の3つの場面で公的保障の差が出やすくなります。
1. 病気・ケガで働けない期間の収入
会社員が加入する健康保険には、業務外の病気やケガで働けなくなった場合に支給される「傷病手当金」があります(出典:全国健康保険協会)。支給額はおおむね標準報酬日額の3分の2で、支給開始日から通算して1年6か月受け取ることができます。
一方、国民健康保険には傷病手当金の制度が原則ありません。つまり自営業の方は、入院や療養で働けなくなった間、収入が途絶えるリスクを公的保障だけではカバーしきれない可能性があります。
2. 老後の年金の上乗せ部分
会社員は国民年金(1階部分)に加えて厚生年金(2階部分)に加入するため、老後の年金は報酬に応じて上乗せされます。自営業は国民年金のみで、2階部分がありません。
この差を埋めるために、自営業向けには国民年金基金・iDeCo(個人型確定拠出年金)・小規模企業共済といった、公的または準公的な上乗せ制度が用意されています。それぞれ掛金の決まり方や受け取り方の仕組みが異なるため、内容を理解したうえで選ぶ必要があります(iDeCoの仕組みについては後述の関連記事もご参照ください)。
3. 万一のときの遺族保障・労災・失業
会社員が亡くなった場合、要件を満たせば遺族基礎年金に加えて遺族厚生年金が支給されます(出典:日本年金機構)。自営業の場合は遺族基礎年金のみで、遺族厚生年金はありません。具体的な支給額は世帯構成や報酬によって個別に異なるため、この記事では金額を明記していません。最新の支給額は日本年金機構の公表情報でご確認ください。
また、業務上のケガ・病気に対する労災保険や、失業時の雇用保険についても、自営業は原則対象外です(建設業の一人親方など、業種によっては労災保険の特別加入制度が利用できる場合があります)。
民間保険を検討する際の考え方
ここまでの公的保障の差を踏まえると、民間保険や共済を検討する際は「どの穴を埋めたいのか」を先に決めることが大切です。
- 働けない期間の収入が心配な場合:就業不能保険や所得補償保険といった、働けなくなったときの収入を補う保険が選択肢になります。貯蓄でどこまで生活費をまかなえるかを先に確認したうえで、不足しそうな期間・金額を保険で埋めるという順序で考えると判断しやすくなります。
- 老後資金の上乗せが心配な場合:民間の個人年金保険のほか、公的・準公的な制度である国民年金基金・iDeCo・小規模企業共済も選択肢に入ります。制度ごとに掛金の柔軟性や中途解約の可否が異なるため、複数を比較したうえで自分の事業の資金繰りに合うものを選ぶ視点が必要です。
- 万一のときの遺族保障が心配な場合:生命保険(死亡保障)で、遺族基礎年金だけでは足りない生活費や教育費の部分を補う考え方があります。必要な保障額は、お子さんの年齢や配偶者の収入によって変わります。
いずれも「保険に入ればすべて解決する」というものではなく、貯蓄・事業の状況・家族構成によって必要な備え方が変わります。
注意点・向いていない人
- 就業不能保険や個人年金保険は、保障内容や保険料の決まり方が保険会社ごとに異なります。保険料の具体的な金額は年齢・性別・健康状態・保障内容で大きく変わるため、この記事では金額を記載していません。実際の見積もりで確認してください。
- 掛け捨て型の保険は、保障を受けずに満期を迎えると解約返戻金がないのが一般的です。貯蓄性のある保険(個人年金保険など)は、途中解約すると払い込んだ保険料を下回る「元本割れ」が起こる場合があります。
- iDeCoは原則60歳まで引き出せません。国民年金基金も中途脱退・解約は原則できません。事業の資金繰りに影響しないよう、無理のない金額で始めることが大切です。
- すでに貯蓄が十分にあり、働けない期間があっても生活費をまかなえる見込みがある方は、無理に民間保険で備える必要性は低いといえます。
よくある質問
Q. 自営業でも傷病手当金のようなものは受け取れますか?
A. 国民健康保険には傷病手当金の制度が原則ありません。一部の自治体で任意給付を行っている場合もありますが、多くの自営業の方は、働けない期間の収入は貯蓄や民間の就業不能保険などで備えることになります。
Q. 個人事業主は労災保険にまったく入れませんか?
A. 原則として対象外ですが、建設業の一人親方など一部の業種では労災保険の「特別加入制度」を利用できる場合があります。ご自身の業種が対象かどうかは、労働基準監督署や労働局にご確認ください。
Q. 自営業は厚生年金に入れないのですか?
A. はい、厚生年金は会社員・公務員などが加入する制度で、自営業は原則国民年金(基礎年金)のみです。老後の上乗せを準備したい場合は、国民年金基金・iDeCo・小規模企業共済などの制度を活用する方が多くいらっしゃいます。
Q. 高額療養費制度は自営業でも会社員と同じ内容ですか?
A. はい、制度自体は健康保険(会社員)・国民健康保険(自営業)のどちらでも共通です。2026年8月診療分から上限額が引き上げられており、年収約370万〜770万円の区分ウの場合、月額85,800円+1%(年間上限53万円)となっています(出典:厚生労働省)。
Q. 会社員から独立したら、何から確認すればいいですか?
A. まずは傷病手当金・厚生年金・労災保険・雇用保険がなくなることを前提に、家計の中でどの部分の備えが手薄になるかを整理することから始めるとよいでしょう。そのうえで、貯蓄で対応できる部分と、保険や共済で備えたい部分を分けて考えることをおすすめします。
ミナト先生のまとめ
家計相談の中では「会社員から独立したけれど、保険って結局何に入ればいいの」というご相談をよくいただきます。そのときにまずお伝えしているのは、「保険を選ぶ前に、まず何がもらえなくなるかを知りましょう」ということです。
自営業になると、傷病手当金・厚生年金の上乗せ・遺族厚生年金・労災保険・雇用保険が原則なくなります。これは事実として押さえたうえで、貯蓄や事業の状況を踏まえて、どこを保険や共済で埋めるかをご自身のペースで判断していただければと思います。
保険の必要性は世帯ごとに異なります。加入・見直しの判断は、必要に応じて専門家にご相談ください。
制度は改正される場合があります。最新の内容は厚生労働省などの公式情報でご確認ください。
この記事を書いた人:ミナト先生/FP2級・元携帯キャリア営業(約1万契約)。通信費と家計の"損しない"見直しを発信しています。


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